盛岡地方裁判所 昭和38年(わ)114号 判決 1963年11月11日
被告人 K(昭二一・一一・二九生)
主文
被告人を懲役三年以上五年以下に処する。
押収してある登山用ナイフ二丁(証第一号および同第二号)は、いずれも、これを没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、少年であるが、製鑵工をしていた父小○○二と母亡同○子との間に、三人姉弟の長男として、岩手県宮古市に生れ、昭和三七年三月、同市の○○中学校を卒業し、高校進学に失敗したので、卒業後は、同年五月頃から、父○二の勧めにしたがつて、同人の勤務する同市内○○鉄工所で働き始めたけれども、仕事を嫌い、間もなく、同所を退職し、その後、同年六月頃から同市内○○自転車店に、同年九月頃から同市内○○漁冷株式会社に、それぞれ、勤め、さらに、同年一一月頃から神奈川県横須賀市の○造船所の第五○○丸に炊事夫として、乗り組んで働くなど、転々と職を変えたすえ、同年一二月末日頃に、住居地の親のもとに帰り、昭和三八年二月頃まで、宮古市の前記○○鉄工所で、電気溶接などの仕事の手伝をし、その後は、徒食していたところ、父○二が妻○子の死後、内妻として、迎えた堤○サ○との折合が悪く、家庭的な不満から、家に帰らず、外泊を繰り返すようになり、ついに、同年四月頃からは、同市○○第一一地割字○○三番地の四所在、同市建設課管理の水防小屋にふとん、毛布、枕などを持ち込んで、寝泊りするようになり、同所を根城に、昼間は、同市○○地内で通りすがりの高校生や中学生から、金員を脅し取つて、買い食いや、映画見物をし、雑誌などを読みふけり無軌道な生活を送つていたが、その間、ギャング映画等に熱中し、ギャングややくざの世界に異様なまでの興味を持つようになり、その空想の世界に魅せられ、ひいては、それを現実化しようと考えるまでになつていたが、
第一、その手はじめとして、アメリカのリンドバーク事件にヒントを得、子供を誘拐して、その親から、身代金を脅し取ることを企て、宮古市内でも有数の資産家として知られ、かつ、住居地の近所であつたことから、ある程度、家庭の事情にも通じている同市○○第一一地割字○○二五番地○江○郎方に目をつけ、同人の子供を誘拐して同人から、身代金を獲得しようと考え、まず、昭和三八年二月頃、同人の長男○信を誘拐するため、同人の通学先である同市○○中学校に電話をかけ、同人を呼び出そうとしたが、たまたま、同人が病気で欠席していたため、その目的を果さず、この計画は失敗に終つたにもかかわらず、なお、その後も、右計画を捨てず、機会をうかがつていたが、
一、同年五月二七日、右計画を実現するため、今度は、前記○江○郎の次男○久(当一二年)を誘拐して、身代金を獲得しようと決意し、同日午後七時頃、宮古市○○地内同市消防署第四分団詰所前第三番公衆電話ボックスから、前記○江方に電話をかけ、右○久を電話口に呼び出し、同人に対し、「小笠原先生が用事があるから、七時に学校に来てくれと言つている。」旨嘘言を申し向け、その言を信じた同人を同市○○地内○○小学校校庭に誘い出し、同所において、同人に対し、「お前、この前、人を殴つたろう。その人の顔を見れば、わかるから、一緒にあえ。」と嘘言を申し向けて、同人を欺き、いぶかる同人の手をつかみ、同人を、同所から、同市△△地内に連行したうえ、川舟に乗船させて、閉伊川を下り、同市閉伊川堤防上の前記水防小屋に連れ込み、同所において、同人に対し、「俺が帰つて来るまで逃げるなよ。もし、逃げたらバラすぞ。逃げて俺のことを話すと、後でどうなるかよく考えてみろ。」と申し向けて、同人を畏怖させ、同所からの逃走を断念させて、同人を両親の保護のもとから、引き離して、自己の支配内に置き、もつて営利の目的で、同人を誘拐略取し、
二、前記○江○久の拐取後、同人の身代金を獲得するため、同日午後八時三〇分頃、同市○○地区内前記第三番公衆電話ボックスから、前記○江方に電話をかけ、応待に出た前記○江○郎(当四三年)および同人の妻○子(当三九年)の両名に対し「わいは、大阪の成田ちゆうもんや、あんたのお子さん預つている。子供を返して貰いたいなら、○○比古神社へ現金二〇万円を持つて来い。これをサツにバラせば、子供の命はないと思え。」などと申し向けて、同人等を脅迫し、同人等をして、もし右要求に応じなければ、右○久の身体にどのような危害を加えられるかも知れないと畏怖させ、よつて、同日午後九時頃、同市○○第一○地割字○○所在○○比古神社境内において、右○子から、同所に連行した右○久と引き換えに、現金二〇万円の交付を受けて、これを喝取し、
三、前記二〇万円の喝取後、右金員を飲食代等に費消し尽し、小遣銭に窮したすえ、前記犯行により、畏怖している前記○江○郎から、再び金員を喝取しようと考え、同年六月一六日午後八時三〇分頃、同市○○第六地割△△四九番地所在△△劇場脇第四番公衆電話ボックスから、前記○江方に電話をかけ、応待に出た前記○郎および○子の両名に対し、「一〇万円を○○小学校に持つて来い。持つて来なければ、家に火をつけるし、子供を片輪にするぞ。」と申し向けて、同人等を脅迫し、同人等をして、もし右要求に応じなければ、自己および子供の身体にどのような危害を加えられるかも知れないと畏怖させ、よつて、同日午後九時頃、前記○○小学校正門附近において、前記○江○郎から、現金一〇万円の交付を受けて、これを喝取し、
四、前記一〇万円の喝取後右金員を再び費消し、小遣銭に窮したすえ、さらに、前記○江○郎から、金員を喝取しようと考え、同年六月二二日午後一〇時頃、同市○○地内前記第三番公衆電話ボックスから、前記○江方に電話をかけ、応対に出た前記○郎に対し、「三〇万円を、すぐ、○○比古神社に持つて来い。持つて来ないと息子全部を片輪にするぞ。」と申し向けて、同人を脅迫し、同人をして、もし右要求に応じなければ、息子等の身体にどのような危害を加えられるかも知れないと畏怖させたが、同人の急報により、間もなく同市○○地内○○母子寮附近において警察官に逮捕されたため、右金員喝取の目的を遂げず、
第二、小遣銭に窮したすえ、
一、昭和三七年七月八日午後六時頃、前記○○比古神社境内において、右神社に参拝に来た高校生佐○三○(当一六年)、工員神○芳○(当一五年)の両名から、金員を喝取しようと考え、右佐○木の襟首を掴み、また右神○の腕を掴んで、右両名に対し、「金があるか。あつたら貸せ。」と申し向けて金員を要求し、さらに、右神○を傍に呼びつけ、同人に対し、「ポケットを検査するぞ。」と申し向け、同人の顔面を二、三回殴打して、再度、金員を要求し、同人等をして、もし右要求に応じなければ、自己の身体にどのような危害を加えられるかも知れないと畏怖させたが、右両名とも、所持金がなかつたため、右金員喝取の目的を遂げず、
二、前同日午後七時三〇分頃、前記○○比古神社下の国鉄山田線線路附近において、右神社に参拝に来た高校生菅○弘○(当一六年)から、金員を喝取しようと考え、同人を呼びつけ、同人の肩に手を置き、同人に対し、「金はないか。」と申し向けて金員を要求し、同人をして、もし右要求に応じなければ、自己の身体にどのような危害を加えられるかも知れないと畏怖させたが、同人の同行者菅○卓○に妨げられて、右金員喝取の目的を遂げず、
第三、業務その他正当の理由がないのに、
一、昭和三八年四月初旬頃、宮古市○○第一○地割字○五六番地の一自宅附近において、刃体の長さ一三センチメートルの登山ナイフ一丁(証第二号)を携帯し、
二、同年六月二二日午後一〇時五〇分頃、同市○○第一一地割字○○地内○○母子寮附近において、刃体の長さ一二・五センチメートルの登山用ナイフ一丁(証第一号)を携帯し、
たものである。
(証拠の種目)(略)
(法律の適用)
被告人の判示所為中、第一の一の営利誘拐略取の点は刑法第二二五条に、第一の二および三の各恐喝の点はいずれも同法第二四九条第一項に、第一の四、第二の一および二の各恐喝未遂の点はいずれも同法第二五〇条、第二四九条第一項に、第三の一および二の各銃砲刀剣類等所持取締法違反の点は同法第三二条第一号、第二二条、罰金等臨時措置法第一項に、それぞれ、該当するが、判示第二の一の所為は、一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の重い神林芳信に対する恐喝未遂の罪の刑に従い、判示第三の各罪については、いずれも、所定刑中懲役刑を撰択し、以上の判示各罪は、同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、最も重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきところ、被告人は、少年法第二条第一項の少年であるから、同法第五二条第一項本文により、被告人を懲役三年以上五年以下に処し、押収してある登山用ナイフ二丁(証第一号および同第二号)は、それぞれ、判示第三の一および二の各銃砲刀剣類等所持取締法違反の所為を組成した物で、被告人以外の者に属しないものであるから、刑法第一九条第一項第一号、第二項により、いずれも、これを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により、その全部を被告人に負担させないこととする。
最後に、刑の量定について、附言すると、被告人が中学校在学中、唯一の心のよりどころとしていた生母を失つたため、愛情に飢え、家庭に不満をもつたことが、被告人の人格の形成に、多少とも、影響を及ぼし、被告人に反社会的傾向を生じさせたのではないかと考えられること、被告人は、判示営利誘拐略取、恐喝の犯行当時、いまだ、満一六歳と五ないし六ヶ月で、思慮分別の浅い未成年者であつたこと等からして、量刑上、被告人に同情を寄せる余地がないでもない。しかしながら、右営利誘拐略取、恐喝の各犯行は、周到な計画のもとになされ、かつ、その態様および手段において、大胆を極めており、単なる不良少年の非行として、宥恕するには、その被害および一般社会に与えた不安、衝動は、あまりに、重大であつて、犯行自体としては、何ら、同情すべき点がないというべきである。また、被告人は、性格異常の点はあつても、精神病ではなく、知能および身体の発育は、一般の少年の標準以上であり、さらに、被告人には、改悛の情の認めるべきものがなく、このままでは、被告人が将来も同じ過ちをくりかえすであろうことが推認される。このような諸事情等を合せ考えると、この際、被告人に対しては、相当長期の実刑を科し、自己の犯した罪の重大性を、深く、認識させ、過去を反省させて、更生の道をひらかせることが相当であるといわなければならない。
よつて、主文のとおり、判決する。
(裁判官 菅家要 裁判官 佐藤栄一 裁判官 玉川敏夫)